逆光
その時、少々沸いた空気を落ち着かせるように料理が運ばれてきた。
もはや食事をするような心境ではなかったが食べないわけにもいかない。
三人で無言のまま前菜とスープを食べ始める。
「で、寺田さんは私のことが好きなんですか?」
なんだか未だに信じられなくて和泉がそう確認すれば、寺田総馬が飲んでいたスープを吹き出しそうになる。
「言い方が直球すぎる!いや、まぁ、その、好き、なんだが、な。」
徐々に目線を逸らしつつ寺田総馬はそう言った。
段々尻すぼみになるその言い方がなんとも情けない。
和泉は目を細めて彼を見つめる。
「はっきり喋ってくれませんか。あと、趣味悪すぎでしょう。」
「和泉さんそれ自分で言うのか。」
寺田総馬は困ったように眉を下げる。
そうしていると童顔も相まってかなり若く見える。
尻尾が垂れた犬のようだ。
「言っておきますけど、私は寺田さんは無しです。あなたの性格は生理的に無理だし、あなたに興味もありません。あなたの通帳には少し興味ありますけど。」
和泉がそうきっぱりと断れば、「そうだよなぁ」と寺田総馬が疲れた様に言う。
「俺だって和泉さんは無いなって思ってたのに、なんでかなぁ……」
「知りませんよ。あなたが面食いだったってだけの話じゃないですか?」
そう言い捨てると和泉はパッと顔を大谷の方へ向ける。
大谷はニコニコと胡散臭いくらいの笑みを浮かべながら和泉と寺田総馬の会話を聞いていたようだ。
「寺田さんはしっかりお断りしたので私と付き合っていただけますか?」
「うーん、悪いけど、友人の失恋相手もかなり面倒くさいから無しかな。」
手をヒラヒラと動かし軽く断られてしまった。
大谷的には寺田総馬が和泉を好きになった時点で和泉は無しなのだろう。
ムカムカした気持ちのまま寺田総馬を睨みつける。
「寺田さんって本当に私の邪魔しかしませんね。」
「そりゃあ邪魔くらいするさ。好きな人が別の人と付き合いそうなんだから。」
ど真面目に好きな人と言われ言葉に詰まる。
酔ってもいないのに本人の前でさらっとこんなことが言える所がまた、気にくわない。