逆光
「俺は二人結構良いと思うけどなぁ。」
「全然良くないです。」
追い討ちをかけるように大谷までもがふざけたことを言う。
和泉は両者にキツイ目線を送り絶対反対の意を唱えた。
大体大谷さんは、と言おうと口を開きかけたところで次の料理が運ばれてきた。
子羊のなんとか、とウェイターが説明していたが和泉の視線は別のところに釘付けになっており、よく聞いていなかった。
それもそのはず、運ばれてきた料理が二人分しかなかったのだ。
嵌められた、と気づいた時には遅く。
「じゃあ、俺はこれから姉さんの誕生日パーティーがあるから一足先に抜けさせてもらうね。」
代金は俺が既に払っておいたから大丈夫、そう言って大谷は流れるような動作で席を立つ。
余りにも堂々としているものだから、和泉も寺田総馬も何も言えなかった。
「後のことは二人で話し合ってね。」
藍色がかったジャケットをさっと羽織ると、大谷はそのまま背を向けて去っていく。
テーブルに残された二つの子羊の肉と和泉と寺田総馬。
予期していなかった展開に二人とも口をきけないでいる。
呆然として大谷が去っていった方を見つめる寺田総馬。
はぁ、と重苦しいため息をつく和泉。
こってりとしたソースと香ばしい肉の匂いが和泉のお腹を刺激したが、この状況をどうすればいいのか不安で食事に手をつけるような気分ではなかった。