逆光
友人に好きな人ができた。
あれは多分、本人は気付いていないが。
大谷は新聞を読みながらその友人について考える。
大谷が寺田総馬と出会ったのは高校生の時だ。
総馬は勉強も運動も出来て誰とでも仲良くなれる。
絵に描いたような優等生だったが、あいつは人付き合いがどこかおかしかった。
誘われたら、行く。
求められたら、付き合う。
誰でもいいんじゃないかというような態度で、それでも周りは気のいい奴としか受け止めていなかったが。
一度、大谷は寺田総馬に話したことがある。
「お前は、俺と一緒にいていいのか?」
「何がだ?」
「俺言ったよな。メリットがあるからお前に近づいたって。自分が被害を被ると思ったらすぐにお前を捨てるぞって。」
「聞いたが。」
寺田総馬は何てことないように受け止めていた。
出会って一番にそれを言った時は、「そうか…」と顔を顰められたが、それも一瞬で、次の時にはもういつも通りの笑顔だった。
そもそも大谷が言っていることを理解出来ていなかったのかもしれない。
言葉としては分かっていても、本気でそんな風に考えている人間がいるとは信じていないように。
「大谷は今までいなかったタイプの友人だけど、でも、同じだよ。一緒に遊んで、飯食って仲良くやっていけるだろうし。」
寺田総馬はそういってまさに爽やかを体現したかのように笑った。
その瞬間、あーあ、と大谷は何か冷めた。
寺田総馬は何でも出来るが、人付き合いに関してはやはりどこかおかしい。
こいつは俺に対しても別の友人に対しても、彼女に対してさえも同じなのだろう。
同じように笑いかけて、遊んで、飯食って。
皆と平等に仲良くして、それで良いと思ってるような奴だ。
「違う。お前、全然違うよ、それ。」
「え、何だ急に。」
「お前はきっと十人の友人がいたら十人とも同じように付き合うんだろうけど、それって普通じゃないんだよ。」
俺みたいな腹に一物抱えてるような奴には少し間を置いて接するべきだし、彼女のことは先約があっても出来るだけ優先するべきだ。
家に招くのは招いてもいいと思える友人だけ。
そういうのが、総馬にはないのだ。
誰にでも同じように心を開くから、誰のものにもならない。
総馬が歴代の彼女と長続きしなかったのもそれが理由だろう。
誰も特別にしないから、誰の特別にもならない。
今までの彼女達も辛かっただろうな、と大谷は思った。
「………どういうことだ?」
高校生の総馬は、さっぱりわけがわからないというように、眉を下げていた。
きっとこいつは、このまま大切も特別も作らないで生きていくんだろうな。
自分とてたいして変わらないが、その時大谷は寺田総馬を可哀想に思った。
変化が起きたのは、大学三年の五月頃だった。