逆光
「そうだ、大谷。今度和泉さんと会ってくれないか?」
「別にいいけど、なんでだ。」
「彼女に俺が親しい友達がいない奴だと思われるのは嫌でな。」
お前の中で俺は親しい友達になっていたのか。
と、大谷はさらりとヒドイことを考えながらまぁいいかと頷く。
大谷も大谷で、総馬の友人関係の異様さを一目で見抜いたその和泉さんとやらに興味があったのだ。
どんな人なのか尋ねれば「見た目は可愛らしいんだが、中身は全く可愛くないひとだな。あと、強い。」と総馬は言った。
強いって何が強いんだ、とつっこんで聞きたかったがめんどくさくてやめた。
いずれにせよ、会えば分かるのだ。
実際に会った和泉さんという人は、確かに見た目はとても可愛らしかった。
世間を知らないお嬢様のような純真な見た目。
パーティで着ていたドレスもイヤリングも相当値が張るものだったが、彼女はそれを難なく着こなしていた。
大学生という身分には身に余るブランドものばかりだったが、彼女が着るとそれはもうしっくりきていた。
ちょっとオシャレした女の子、などという感じではなく、それが普段着ですと言われても納得してしまうような雰囲気。
話してみれば総馬のことは嫌っていたが、それ以外では普通の女の子に見えた。
いや、普通、ではないかもしれない。
普通より少しばかりずれているが、変人ではない、といった具合だ。
彼女は最近の子にしては珍しくハッキリと自分を持っていたし、だからこそ総馬の笑顔に流されずにあいつの性格を見抜いたのだろう。
必要最低限の礼儀を持ちながらも、彼女はじっと大谷を観察していた。
こういう子は、めんどくさいがある意味好ましい。
表面の笑顔やその場限りの言葉に騙されないというのは、真剣にこちらに向き合ってくれいるということだ。
その上彼女はどうやら大谷に興味があるようで、悪い気はしなかった。
「今度またゆっくりお話したいです。」
なんて、にっこりと笑われる。
この子は自分が笑えば男がどう思うか分かっててやってるんだろうなぁ、とは思うが、それでもまぁ許せるくらいには可愛いので流せてしまう。
彼女にとって自分の顔は世渡りの上での大きな武器なのだろう。
ホント、うまく自分の顔を使うなぁ、と大谷は感心した。
開き直ってそのくらい計算高く生きているその姿はいっそ清々しい。
ただ、彼女は死ぬまで独りきりなのだろうな、ともその時思った。
誰と結婚しても、分かりあおうともしないのだろう。
大谷も似たようなものだが。