逆光
それからというもの、大谷は何度か総馬に会いに行くハメになった。
一応約束は約束なので彼女と再び会うために連絡先を聞きに行っていたのだ。
だが、総馬は何故か渋って教えてくれない。
「大谷、何度も言うが、和泉さんはあれだぞ。腹黒いぞ。」
「何回も聞いたって。」
ていうか、俺も似たようなものだから、と大谷は心の中で呟く。
どうやら総馬の中では和泉さんはとんでもない悪女らしい。
連絡先を教えてくれと言うたびに、本当に和泉さんでいいのか!?と注意される。
そんなに言うほど悪い人ではないと思うのだが。
総馬からしたら、打算や利己目的で動く人は全て悪人に見えるのかもしれない。
それなら俺なんてまさにそれだな、と大谷はぼんやりと思う。
しかし和泉さんからも急かされていたらしく、数日経てば総馬は折れた。
「和泉さんは大谷に気があるそうだ。彼女はお金持ちで将来が安定しそうで教養がある人と結婚したいらしいからな。」
「へぇ。」
赤外線で和泉さんの連絡先を教えてもらいながら大谷は相槌を打つ。
その、何とも思ってなさそうな態度に総馬が噛み付く。
「彼女は大谷を条件を満たしてる人としてしか見てないんだぞ。性格とかそういうのじゃなくて。」
「寧ろ求めてるものが明確で分かりやすいだろ。俺は逆に愛情とか求められても困るしな。金を求められた方が随分と楽だ。」
大谷が冷静にそう言い放てば、総馬は溜飲を下げる。
少し悲しそうに眉を下げたその顔は犬みたいだ。
「どうして大谷も和泉さんもそんな考え方なんだ。お似合いといえばお似合いなんだろうが。」
総馬は寂しそうにそう呟く。
そりゃあ、いろんな人間がいるからさ、と大谷は心の中で言う。
恋に生きる人もいれば、俺やその和泉さんみたいに、本気で誰かを好きになれそうもない人もいる。
確かに、彼女と一緒にいるのは楽かもしれない、と大谷は思った。
彼女が俺にお金を求めているんだったら、俺はそれにさえ気を付けていればいいのだから。
機嫌をとるようなキスやスキンシップなど、世間一般のカップルがするようなことは彼女は求めていない。
そういうのが要らないんだったら、彼女は大分楽な相手だ。
大谷がそんなことを考えている間、総馬はなおも納得がいかないような顔をしていた。