逆光
何度か和泉さんと出かけてみたら、意外にも感触は悪くなかった。
落ち着いた人だとは思っていたが、彼女はちょうどいい静かさを常に保っていた。
それに大谷の話をちゃんと覚えていてくれるし、知ろうともしてくれる。
「予想外だけど、和泉さんってけっこう献身的なのな。」
「は!?」
大谷がポツリとそうこぼせば、総馬がカッと目を見開く。
「全然想像できないんだが。」
「俺が話した話題とかちゃんと調べて次会う時には色々自分の考え言ってくれるよ、彼女。」
そう大谷は話しながら、あれ?と思った。
何か似たようなことがあった気がするが思い出せない。
「大谷、それは彼女が献身的なんじゃなくて、大谷という好条件を離したくないだけなんだ。」
彼女は決して誰かのために自分を犠牲にしたりしない、と総馬は真剣な顔で断言する。
あまりの言い様だが、的は射ていると思う。
だが、大谷としては彼女の真意はどうでも良かった。
純粋な好意じゃなくても、大谷を手に入れるためにある程度の努力はしているというのは印象が良い。
顔が良いからと甘えて自分が奉仕してもらうことしか考えないような人だったら断ろうと思っていたのだが。
カラン、と飲んでいたアイスコーヒーの氷をかき混ぜる。
相手に困っているわけではない。
だけど、大谷の性格に合った、大谷に愛情を求めない相手というのはなかなかいないのだ。
良いかもしれないな、とぼんやり思った。
「大谷。」
「ん?」
「付き合うのか?和泉さんと。」
総馬のその問いに「そうしようかと思ってる」と答えようとして、大谷は顔を上げてはたと口をつぐんだ。
総馬の目が、責めるように大谷を見ていたからだ。
責めるというよりは、とそこまで考えて大谷は気付いた。
何度も向けられてきた目だ。
今までの高校のクラスメイトとか、知り合いが、大谷と総馬に向けてきた目だ。
裕福な家庭で、恵まれた容姿と頭の良さから、受けてきた。
所謂、嫉妬とか羨望とかの類の。
いつもはそれを向けられる立場である総馬が、今回はそれを大谷に向けている。
そのことに優越感や憐れみを感じるよりも先に大谷はただ「珍しいな」と、思った。
何でも持っているような総馬がそんな目をするなんて。
しばし動きを止めた大谷を総馬はただ見つめる。
数秒の思慮の後、あぁ、そうか、と大谷は納得した。
寧ろ何で今まで気づかなかったのか。
「総馬は和泉さんと付き合いたかったのか。」
「は!?」
面白いくらいに総馬が反応した。
今飲み物を飲んでいたら確実に噎せていただろう。