逆光
「当たりだろ?」
「いや、見当違いすぎる!大体なんでそんな考えになったんだ‼︎」
「お前の態度さ。」
えぇ?と全然納得してない顔で総馬が声を上げる。
なんだか今までのやり取りが馬鹿らしくなってきた。
肘をつき、大谷は指を折って数える。
「馬鹿高いフェラガモの物をあげたり、和泉さんとの会話のために大戦について調べたり、俺が和泉さんと付き合うのを妙に嫌がったり。」
な、ほら。と大谷がそう同意を促せば、総馬がポカンとした顔で見つめ返してきた。
その表情は困惑、ただそれに尽きる。
こいつ、無自覚だったのか、と大谷はいっそ呆れた。
「え、嘘だろ?」
「いやお前のことなんだからお前が考えなよ。俺の予想の話だし。」
まぁ、確実にそうだと思うけど、と心の中で付け足す。
目の前で総馬が頭を抱えて黙り始めた。
未だに現実を理解できていないらしい。
そんな総馬の様子を見て、無理もないだろうな、と大谷は思う。
今までの総馬の世界はほぼ全ての人が等しく平等だった。
誰でも変わらなかった。
けれど、和泉さんという人を知り、総馬の平等から外れる人ができた。
合わない、理解できない、知りたい。
恐らく、そこで総馬は初めて執着をおぼえたのだろう。
大谷と付き合ってほしくないと思うくらいの執着を。
大谷はふぅ、とひと息つく。
一体どこでどんな作用が働いたのか。
恋だ愛だというには少し歪な気もするが、執着や独占欲は確実に存在しているだろう。
あれか、自分と正反対の人に惹かれるってやつか。
十分経っても総馬は黙って考え込んだままだったので大谷は彼を置いて一人で帰った。
勿論代金は総馬の奢りだ。
二十歳も過ぎた男が恋心を自覚するのを手伝ってやったのだからこれくらいいいだろう。
しかし焚き付けておいてあれだが、大谷にはあの二人が付き合う様子が全く想像できなかった。
所詮他人事なのでまぁ付き合ったら付き合ったでなんとかなるだろ、と投げやりに完結したが。
次の日の早朝、『一晩考えてようやく分かったんだがな……』とやけにすっきりした声で総馬が電話をかけてきた。
言われなくても総馬が至った結論なんて簡単に想像がつく。
大谷は問答無用で電話を切り二度寝を決め込んだ。