逆光
こってりとしたソース。
赤ワインが入っているのか、コクがあってとても美味しい。
子羊の肉は初めて食べたが、臭みはなく和泉の口にあった。
隣に座る寺田総馬をチラリと一瞥する。
ナイフとフォークの使い方が上手い。
着ているスーツはアルマーニ。
付けている時計はハミルトン。
ブランド物もそれなりに似合っている。
モグモグと口を動かしながら、ふむ、と和泉は考える。
人生には、妥協も必要だと。
「寺田さん。」
「なんだ?」
「付き合いましょう。」
「はぁ!?」
ガチャンッと皿とナイフが耳障りな音を立てる。
周りの客が一瞬だけこちらに意識を向けたことに気付き和泉は眉をしかめる。
寺田総馬もそれに気付いて慌ててナイフとフォークを皿の端に置く。
「音立てないでください。マナーですよ。」
「肉を切ってる最中に和泉さんが変なことを言うからだろう。あと、大谷に振られたからってヤケクソになるのはどうかと思うぞ。」
「誰のせいで振られたと思ってるんですか。それとヤケクソじゃないです妥協です。」
「それを俺本人に言うあたりがホント和泉さんだな。」
はぁ、とため息をついて眉間をおさえる寺田総馬。
和泉はムスッとした顔で水を一口飲む。
大谷という大本命に振られた今、性格を除いて和泉が望む条件を揃えているのは寺田総馬しかいないのだ。
妥協だが、しょうがない。
今この寺田総馬という人物を逃したら、次いつ条件を満たす男に出会えるのか分からないのだ。
「寺田さん。」
「ん?」
「付き合いましょう」
ごり押しでそう言えば寺田総馬が恨めしそうな目で見てくる。
何だ、というように睨み付ければ目を逸らされた。