逆光





寺田総馬と付き合ってから、和泉の日常は結構変わった。


まず、交友関係が以前よりもぐっと広がった。
これは寺田総馬と一緒にいると誰かしら総馬の友達と話すことになるからだ。

それに、和泉と総馬という目を引く二人が一緒に居るのが珍しいのもあるだろう。
寺田総馬と話しているとあらゆる人から声をかけられるのだ。


隠すようなことでもないので「お付き合いしています」と話せば男女共に些か残念そうな顔をする。
和泉自身は自分の顔の良さは自覚していた。
だから男のその反応も予想できたが、女の子も残念がるとは。
寺田総馬もやはりモテるのだな、と思った。


それから、気付いたことがある。
寺田総馬は我慢強く、それなりに気がきく。

和泉のワガママにも付き合ってくれるし、デートのプランもほとんど彼が考えている。
和泉は総馬の後について楽しめばいい、それだけ。
お気楽にもほどかある。

寺田総馬はこれでいいのだろうか、と思いながらも、和泉は買ってもらったシチズンの腕時計を見る。
やっぱり上品で可愛らしい。

和泉が腕時計を見ているのに気付いたのか、寺田総馬が声をかけてくる。


「それ、気に入ったか?」

「はい。」


そう言えば寺田総馬の顔も心なしか満足気になる。
チョロいことこの上ない。

和泉としてはお金目当てで寺田総馬と付き合ったからこの状況に不満はないのだが、寺田総馬はどうなのだろう。
ATMのような扱いでも文句も言わないのは気質なのか。
Mなのか。

和泉のそんな心の内など知らず、寺田総馬は楽しげに何か雑誌を読んでいる。
普通の地方紙のようだが。


「和泉さん。」

「はい?」

「骨董市に行かないか?」

「骨董市ですか?」


初めて聞いたと和泉は目をパチクリさせる。




< 86 / 181 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop