逆光






「そういえば、大谷が諜報部の試験に受かったらしいぞ。」

「あぁ、聞きました。」


大谷はかねてからの望み通り諜報部に入るらしい。
それは数日前に本人からの電話で聞いていた。

その時の彼は特段はしゃいでいるわけでもなく、淡々としていた。
ある程度自分の実力を知っていて、受かるという自信があったのだろう。

だが、あの電話の時の大谷はどこかおかしかった。
簡単にお互いの現状を話していたが、ある瞬間に突然黙り込んだのだ。

何か迷うような間の後。
大谷は、至って冷静な声で和泉に話しかけてきた。


『和泉さんと総馬ってもう一年も続いてるよね。』

「そうですけど。すぐ別れると思ってました?」

『さぁ。』


曖昧な言葉で会話が途切れる。
珍しいな、と和泉は思う。

大谷は真意が分からないような回りくどいことはよく言うが、言葉をぼかすということはほとんどないのだ。
つまり、大谷が言う言葉にはいつも何らかの意味がある。

だが、先ほどからの大谷の言葉は意味が無かった。
というより、何か言いたいことがあるけど言えない。
けれども言いたいから当たり障りのないことで時間稼ぎをしている。
そんな感じだった。

和泉は不審に思って大谷を問い詰める。


「何か言いたいことでもあるんですか?」

『うん。あるけど、言えないんだよなぁ』

「……」


誤魔化してくるかと思った。
だが、意外にもあっさりと大谷は認めた。
何と返すべきか迷い、今度は和泉が黙ってしまう。





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