逆光
和泉さんが和泉に。
寺田さんが総馬さんに。
気付いた時には、お互いの呼び方が変わっていた。
和泉はゴロンとベッドに横になる。
ふかふかの、包み込まれるような感覚。
和泉の家のベッドとは明らかに質が違うと分かる。
和泉はこのベッドがお気に入りだった。
何度も訪れた寺田総馬の部屋。
もう部屋に慣れた和泉は思いっきり寛ぎはじめる。
そんな和泉を他所に寺田総馬はせっせとコーヒーを淹れてくれる。
「総馬さんのベッド、本当にいいですよね」
「和泉はそれ好きだよなぁ」
当然のようにミルクを淹れる総馬。
お互いの好みは大体知り尽くしている。
和泉がコーヒーにミルクを半分近く淹れること
。
寺田総馬がケーキだったらモンブランを好むこと。
和泉が寺田総馬の部屋のベッドのふかふか具合を気に入っていること。
それから。
「総馬さん。」
「んー?」
「結婚したら、このベッド買ってください」
寝室に、ダブルですよ。
キングサイズでもいいです。
ゴロゴロと寝転がりふかふかの布団を堪能しながら和泉はそう言う。
ふっと寺田総馬が笑った気配がした。
動く気配。
ギギッとベッドが軋み、逞しい腕が和泉の腰を抱きかかえる。
流れるような動作で抱きしめられた。
和泉は知っているのだ。
寺田総馬が、和泉が結婚の話題を出すことを好むことを。