逆光
「和泉ー」
バフン、と寺田総馬がベッドに横になる。
和泉は黙って彼の胸板に顔を寄せた。
柑橘系の制汗剤の匂い。
いつもの匂いだ。
優しい手つきで頭を撫でられる。
「総馬さん」
「ん?」
「翔が、出兵するそうです」
「ナムト国にか?」
「はい」
和泉の言葉に寺田総馬は「そうか」と言ったきり、何も言わなかった。
ただ、ぎゅっと和泉を抱き寄せる腕の力を強めただけ。
以前の寺田総馬だったら訳もなく気を遣って見当違いなことをベラベラと話していただろう。
しかし、「女には黙って抱きしめて欲しい時があるんです」という和泉の主張を何度も聞いてきたせいか。
最近は、和泉が少し落ち込んでいるときは黙って抱きしめててくれるようになった。
それが嬉しい反面、寺田総馬に頼っているという事実がなんともこそばゆい。
翔がナムト国へ行く。
その報告は本人から聞いた。
数日前。
久方振りに会った翔は、精悍な顔つきになっていた。
「ちゃんと帰ってくる?」
無表情でそう聞く和泉に翔は困ったように笑っていた。
「保証はできないな」
「死にそうになったら、全部投げ出して逃げなよ」
命かける必要なんてないんだから。
そう、なんとも身勝手なことをのたまう和泉。
相変わらずだな、と翔は思った。