彼に愛を教えてください。
―――…
「…初めまして、えっと…」
「さっきの自己紹介聞いてくれてたー?三島加奈子です!これから宜しくね」
「ご、ごめんね。私は…」
「玲香ちゃんだよね。玲香って呼んでもいいかな」
「もちろん」
高校の入学式。HR後の教室で席が前の子に話しかけられた。透けるような長い髪に可愛い見た目のわりに、大人びたしゃべり方をする子だなと思った。
家から3駅先の自称進学校に合格した私はただなんとなく制服が可愛いからとの理由だけでここに来た。同じ中学だった子も数人いる。ただ、この自分のクラスには同じ中学の人がいなく心細かった。
高校を入学してから、慣れない電車に乗り、勉強道具をそろえることや周りに馴染むことが精一杯で周りのことなんてまったく見てなかった。
「あ、数学の宿題やるの忘れてた…玲香ちゃん、やってきた?」
「うん。やってきてるよ。見る?」
「えっ、まじ?あたしにも見せてー!」
何人かの近くにいたクラスメイトも、見せてほしいと言ってきた。
「あ、宿題なんてあったの?俺も見てもいー?」
ひときわ、白い手がノートに伸びていくのを見た。明るい、明るすぎる透けるんじゃないかと思う茶髪に明るいノリの、誰か。
そんな彼のことを、まるでスローモーションのように見ていた。
「………え?」
チラリと、目があった気がした。薄い色の瞳で、明るい声からは想像も出来ないような冷たさがあった。
「あっ、加賀くーん。一緒に見るー?」
「見る見る。えっと、玲香ちゃん?ありがとー」
少し派手めのクラスメイトと一緒にノートを写しに行く彼になんとなく背筋がゾクリとした。
ボソリと、近くにいた加奈子が「…加賀透…」と言った。
「知ってるの?」
「いや、クラスメイトでしょ。けど、あんまり教室で見ないよね。よく中庭にいるけど」
「へぇ…」
「玲香ちゃんはあんまり加賀君に興味持ってないねぇ。ほら、加賀君噂いっぱい持ってるから」
「噂?」
「女の子、とっかえひっかいだって」
そういった時の彼女の表情が、私は思い出せない