彼に愛を教えてください。




加賀君との関わりはほとんどなかったはずだ。なのに、どうして今彼は私の隣にいるんだろう


きっかけは教室での掃除だ。教室にあるはずの箒が一本足りなくなっており、誰が裏庭にある倉庫からとってくるかとなりじゃんけんで私が負けたのだ。鍵を職員室からもらい、裏庭に行くといつも中庭のほうにいるはずの加賀君がいたのだ。そして私を見つけるとにっこりとあの背筋がゾクリとする笑顔を向けてこっちに来たのだ。


「確か頭いい子だ!」

「いや、そんなよくないですし」

「なんで敬語?」

「……話したことないから?」

「え?そうだっけ。あ、確か玲香ちゃんだっけ。思い出した」

「………。」

「玲香ちゃん眉間にしわよってるし。てか、どうしたの。こんなことまで。この辺こわーいヤンキーとかいるから気を付けてよ?」

「加賀君はそんなこわーいとこに一人でいたの?」

「あっ、俺の名前ちゃんと覚えててくれたんだー」

「…聞いてた?」


そういって、倉庫にたどり着いた。鍵を差し込むと、開いたようだ。そして、隣の彼はついてくるらしい。
結構この人、苦手なんだよね。ちょっと、今までにいないタイプだからどう接すればいいのかわからない。


少し立て付けの悪いトビラをあけると薄暗い。奥のほうに箒が何本かあるのが外からの光でわかった。



「ねぇ、玲香ちゃん」

「何?」

倉庫に彼は入ってこないらしい。私だけが入った状態で振り向いた。入口のトビラによしかかるようにいる彼は嫌ななくらい儚く、綺麗な男の子だ。黙っていればそれなりに騒がれる美少年なのかもしれない。もったいないやつ。

「こうゆう薄暗いところに男女ふたりっきりってモえない?」

「は?」

そういって入口からこっちに来るのがわかったが頭がついていない。驚くぐらい白い彼の手が私の頬から顎に移動してそのまま上に向かされた瞬間に目の前が暗くなった。いや、それだけじゃない。唇に何かが触れている。

「目、閉じないんだ」

「どうした、の」

「ん?こういうスチュエーション好きなんだよね」

「は?」

それと同時に携帯音が響く。私の携帯の音じゃない。するりと携帯を出して「あ、エミちゃん?ん?今から?いいよ」と言いながら出口に歩いていく。

「あ、玲香ちゃん。バイバイ」

「ば、ばいばい……」


手をひらひらさせながら彼は見えなくなった。


ようやく、頭が働いてくる。それと同時に耳が熱くなった。え?何、今の。え…?


今、私何されたの?加賀君とこうやってちゃんと話したの初めてだよね?挨拶?外国なの、ここ。帰国子女…?ダメだ。頭がパンクする。そうじゃなくて、そうじゃなくて!!!


ファーストキスじゃん…!


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