それを愛と呼ぶのなら。【完】




悟と仲良くなって一ヶ月。

つまりは、ここで初めて逢ってから一ヶ月。

いつものこの店で、私は悟と飲んでいた。




この日の悟は、いつもよりもへべれけに酔っぱらっていて、(いや、いつもへべれけなのだけれど…)明らかに家に帰る気配がなかった。

仕事帰りのスーツのまま。

カウンターに両肘を乗せて頭を抱えるように座っている。




「ちょっとサト!ダメならちゃんと帰って寝な。明日、またキツくなるよ」


「あぁ、もうちょい…」


「ちょっと!」




どんなに呼んでも虚ろな声で、曖昧な返事を繰り返すだけ。

カズさんに目線を向けると『お手上げ』のジェスチャーをされた。



ということは、これで私は朝まで帰れないということだ。

何と言っても、今日悟を呼びつけたのは私。

呼びつけておいて、放置して帰れる訳がなかった。




「もう。悟ってばいつもコレなんだから」


「暁がタフすぎるんだろ?悟は普通だって」


「サトだって充分にタフですよ。まぁ、私よりおっちゃんだから許すけど」


「まぁな。二十代と三十代の体力の差だよな」




そう言って、カズさんは笑っていた。

私は目の前のお酒を煽るように飲み干し、カズさんにそのグラスを手渡した。



からん、と音を立てた氷が静かに割れたのを見た。




「同じでいいか?」


「お願いします」




カズさんが氷をグラスに入れ、手際よく私のためのお酒を作ってくれる。

その手元を見ていると、隣で不安定に揺れる悟の身体が目に入った。







全く。

いい大人が。

可愛い顔して寝ちゃって。







そんな悟の頭をそっと撫でる。

少しモソモソと動いて、悟は小さく『う~ん』と声を出していた。



< 14 / 49 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop