それを愛と呼ぶのなら。【完】
悟と仲良くなって一ヶ月。
つまりは、ここで初めて逢ってから一ヶ月。
いつものこの店で、私は悟と飲んでいた。
この日の悟は、いつもよりもへべれけに酔っぱらっていて、(いや、いつもへべれけなのだけれど…)明らかに家に帰る気配がなかった。
仕事帰りのスーツのまま。
カウンターに両肘を乗せて頭を抱えるように座っている。
「ちょっとサト!ダメならちゃんと帰って寝な。明日、またキツくなるよ」
「あぁ、もうちょい…」
「ちょっと!」
どんなに呼んでも虚ろな声で、曖昧な返事を繰り返すだけ。
カズさんに目線を向けると『お手上げ』のジェスチャーをされた。
ということは、これで私は朝まで帰れないということだ。
何と言っても、今日悟を呼びつけたのは私。
呼びつけておいて、放置して帰れる訳がなかった。
「もう。悟ってばいつもコレなんだから」
「暁がタフすぎるんだろ?悟は普通だって」
「サトだって充分にタフですよ。まぁ、私よりおっちゃんだから許すけど」
「まぁな。二十代と三十代の体力の差だよな」
そう言って、カズさんは笑っていた。
私は目の前のお酒を煽るように飲み干し、カズさんにそのグラスを手渡した。
からん、と音を立てた氷が静かに割れたのを見た。
「同じでいいか?」
「お願いします」
カズさんが氷をグラスに入れ、手際よく私のためのお酒を作ってくれる。
その手元を見ていると、隣で不安定に揺れる悟の身体が目に入った。
全く。
いい大人が。
可愛い顔して寝ちゃって。
そんな悟の頭をそっと撫でる。
少しモソモソと動いて、悟は小さく『う~ん』と声を出していた。