それを愛と呼ぶのなら。【完】
すると突然、悟の腕が私の腰に回ってきた。
悟がする独特の抱き締め方で、私の腰に力を入れる。
「わ…っ!サト、起きてるの!?」
「……ね、ムイ……」
「ちょっと、サト?」
「……ん……」
「あぁ。完全に寝惚けてるな、ソレ」
「ですよね。悟のバカ。いつもコレだ」
悟は最近、私の膝で寝るのがお気に入りだ。
腰に腕を回して、私の太腿にこれでもか!と頭を沈めて。
自分が眼鏡をかけていることなんて、お構いなしだ。
だって、私がその眼鏡を静かに外す事を知っている。
その後そっと、整髪料のついた髪を撫でることを知っている。
撫でたところから、悟の香水の香りがする。
悟の香水は、悟以外の人が着けているのを知らない。
悟曰く『人と同じものは嫌だから』とのことだった。
爽やかなだけでなく。
甘いだけでなく。
鼻の奥に残る独特の香り。
鼻ではなく、脳の奥に記憶されたかのように感じるこの香り。
この香りがする度に、きっと悟を想い出すのだろうなと想う。
悟は、私を抱き締める時。
ハグの軽さではなく、しっかりと抱き締める。
悟の腕が絡みついて、もうほどけないのではと想うほど。
私と悟の境界線が、わからなくなるのではと、錯覚してしまうほど。
息が苦しいわけじゃない。
『離さない』と、暗に言われている腕の強さが、一番苦しかった。
「馬鹿サト。苦しいよ」
ひとり言のようにそっと悟に告げる。
私の声なんて聴こえていないはずなのに、悟は私を抱き締める手に力を込めた。
「暁、今日も母親役か?」
「そうですね。サトの母親役は、私しかいないですから」
「違いない。めんどくせぇしな」
「ほんとに」
そう言って笑う。
笑うことで、悪態をつくことで、悟をこうして寝かせていることを正当化していた。