それを愛と呼ぶのなら。【完】
「はいはい、酔っ払い。もうここでいいでしょ?早くネットカフェ行って寝なさい。ちゃんと起こしてあげるから」
とんとん、とあやすように悟の背中を叩く。
それに反応して、私を抱き締める腕に力を入れる。
苦しいってば。
馬鹿、悟。
「お前、抱き心地いいわ。気持ちいー」
「……変態」
「お前ねー、俺は褒めてんの。わかんねぇかな」
「私、彼氏持ちだから」
「………知ってるよ」
何よ、その間は。
気付かないとでも想ってるの?
今、悟の手が少しだけ震えたことに。
少し、怯えたことに。
「お前は、イイ女だな」
「そうでしょ?ありがと。悟にそう言ってもらえるなんてね。お世辞でも嬉しい」
「いや、マジで。サンキュな。ここまで、送ってくれて」
「……ついで、だから」
「それでも」
二人ともわかっていた。
それ以上は、何も言えないことを。
悟の信念は、『彼氏持ちには手を出さない』。
多分、今まで散々遊んできたであろう悟が、唯一守っていることなのだと想う。
その信念の裏には、きっと優しさがある。
彼氏と自分の間で揺れることは、その女の人が一番傷つくことだと、悟は思っている。
誰かを傷つけることを極端に嫌う悟。
誰かが傷つくくらいなら、自分がそれを代わりに引き受ける。
悟は優しい。
自分を傷つけることを厭わない優しさは、胸を苦しくさせるだけなのだ、と。
この人は知らないのだろうけれど。
これ以上の距離感は、私たち二人を苦しくさせる、と知っていた。
それなのに。
離れがたいと想う自分が浅ましくて。
それでも、触れていたいと想う自分を、抑えることに必死だった。