それを愛と呼ぶのなら。【完】
悟は、私が真正面から『好き』と言うと本当に照れてしまう。
からかわれていると知っていても、真っ直ぐに言われ慣れていないらしく、どこか落ち着きがなくなる。
そんな悟をからかう私に、カズさんがいつも便乗してくれる。
それを見て、みんなで悟を苛めるのが最近の私たちの楽しみ方なのだ。
「あー、もうホンットこの店最悪。もう、知らねー。もう、いい」
そう言って、自分のビールをほぼ一気で空にする。
空になったグラスは、あっという間に新しい満杯のグラスと交換されていた。
「サックーン、どちたの?はじゅかちくなちゃったのー?」
「カズさん、ウザイ。お前のせいだからな!ぜってぇ聞き出す。悔しいから何が何でも聞き出す!」
「私のせいにしないでよ。サトが勝手にお酒煽ったんだからね」
「俺はお前の話を聞きに来たんだよ。聞いてやらなきゃ意味ねぇだろーが。吐き出せよ。なんでも聞いてやるから」
悟は、カズさんに赤ちゃん言葉でからまれて全然キマらないままそんなことを言った。
向かいのカウンターからカズさんが『サックン、カッコイイでちゅね~』と悟をまだからかっていた。
私は。
不覚にも悟の言葉が嬉しくて、どうしようもない気持ちに襲われた。
間違いなく。
今、私は悟にときめいた。
胸の奥で、ドクン、と何かが音を立てたのを聴いた。
「…悟」
「なんだよ」
不機嫌な悟の声は、不機嫌な目線と共に私の方を向いた。
その顔は、カズさんにおちょくられ過ぎて『げんなり』という感じだった。
馬鹿だなぁ、となんとも言えない気持ちが、私を笑顔にさせた。
「ありがと。ほんとに嬉しい」
「…最初からそう言え。ほんっとお前は素直じゃないな、ばーか」
悪態をつきながらも、どこか満足そうな悟が笑った。