それを愛と呼ぶのなら。【完】
カタンとテーブルにグラスを置いて、呆れ顔の千那はおもむろに鞄に手を伸ばした。
取りだした柔らかいレース素材のシュシュは、手首に着けても映えるようにピンクゴールドのチェーンが輝いている。
千那は緩いウェーブのかかった肩まである綺麗な髪を、シュシュでまとめた。
ハニーブラウンの髪にそのシュシュは良く似合っている。
「やっぱり千那は白が良く似合う」
「ありがと。花嫁に言われると照れるわね」
千那は本当に綺麗。
低過ぎず高過ぎない身長に、スポーツで引き締まった身体。
何より、いつまでも変わらない可愛らしい顔が私は羨ましいな、と思う。
「でも、暁の方が白は似合うわよ。何も混じり気のない純白の色が、暁の白い肌をもっと綺麗にしてくれるわ」
「そう…だね。そうだといいな」
曖昧に返事をして、目の前の赤ワインを飲み干した。
結婚式をちゃんと意識して、今日は赤ワイン以外のものを飲まないようにしている。
つまみは生野菜やフルーツだけ。
いくら朝イチでエステとはいえ、ちゃんと自己管理をしなくてはいけないことくらい、ちゃんとわかっている。
そっと、そんなことを考えていた。
私の表情が曇ったのがわかったのか、千那が目ざとく私を見た。
その視線をかわすことが出来ず、目の前に置かれた空いたグラスから目を上げた。
私達の行きつけであるこのバーは暗い。
この暗さの中で、千那の目は鋭く私を見抜いていた。
大きな音で流れる音楽が遠く感じるほど、私は千那の目線を意識していた。
ふっと目線を逸らして、千那が少し離れたカウンターに向かって手を上げる。
「すいませーん。赤ワインとビールお願いします」
千那の通る声が響き、馴染みの店員の明るい返事が聞こえた。
その声の主に笑って目を向けると、グラスを軽く持ち上げて私に笑い返してくれた。