それを愛と呼ぶのなら。【完】
「…暁。俺を、好きだって言えよ」
そう言って、悟は私を抱き締めた。
いつものように強く抱き締めて、私を抱えるようにして。
背中に回された腕は、私の身体を軋ませるんじゃないかと想うほど強い力で絡み付いていた。
首筋に悟の呼吸を感じる。
悟のがむしゃらな抱き締め方に、なんだかとても切なくなってどうすることも出来なかった。
ただ、堪らなくいとしくなって。
そっとその背中に腕を回した。
「悟。私…涼ちゃ――――――」
「知ってるよ」
「…じゃあ、なんで…?」
「知るか。俺もわかんねぇよ」
「なに、それ」
ふふふ、と小さく笑った。
ただの駄々っ子みたいな悟が、なんだかとても可愛くて。
「笑うなよ」
拗ねたように言って、そっと首から顔を離す。
おでことおでこがくっつきそうな距離。
鼻先三センチの距離に、悟がいる。
「お前、その顔やめろ」
「え?」
悟は困ったような、でもとても優しい顔で笑った。
その顔を見て、とても安心した。
いつもの悟だ、と想って。
嬉しくなって、私も笑った。
この状況をどうしよう、とか、そんなこと今は考えられなくて。
悟が笑ったことに、どうしようもなく安心していた。
「泣くな」
泣いていることに気付いたのは、悟がそう言ったからで。
悟はそっと、私の頬を親指で拭った。
その手からは、やっぱりいつもの悟の香りがした。
頬に添えられたままの手を、振り払うことは簡単で。
この腕の中から逃げ出すことも、簡単で。
けれど。
この香りと強い腕が、麻薬みたいに私の身体を麻痺させる。
目の前の深い黒の瞳が、私を捕まえている。
「…暁…」
私の名前を悟が呼んで、柔らかい唇が私に重なった。
触れるだけではなく、貪るように深くなる唇を逃げることなく受け止めた。
暖かい感触が口の中を探る。
漏れる息に、悟が笑う。
私の名前を呼んだ声が、これ以上ない程の悟の告白だった。
あんなに切なく響く自分の名前を聞いたのは、生まれて初めてだった。