それを愛と呼ぶのなら。【完】
「何を今更」
「答えて。大切なことだから」
千那は笑わない。
可愛らしいという印象を強く持っている千那の顔は、実はとても整っていて。
表情がなくなると、信じられないくらい怖くなる。
いや、それだと語弊があるかもしれない。
誰もが言葉を失くす。
そんな雰囲気を纏うのだ。
「涼一が、一番好きよ」
千那は一瞬目を見開いて、そして何か苦しそうに目を閉じた。
そんな顔をするなんて珍しいな、と思って千那を見つめる。
すると、小さくため息をついて困ったように笑う。
その顔は心から私を心配する顔で、千那にそんな顔をさせる何かをしてしまったのかな、と。
急に不安になって、悲しくなってしまった。
「千那…?一体どう――――――」
「暁」
珍しい。
千那はいつも、私の言葉を途中で止めたりしない。
どんなにくだらないことでも、しっかりと耳を傾けてくれるから。
それが、今日は。
まるで何かを咎めるように私に言葉を発する。
私はどうする事も出来ないまま、真っ直ぐ目の前の友人を見つめていた。
優しくも厳しい。
お互いにかけがえのない友人を。
「暁。涼ちゃんのこと、好き?」
「好き。涼一が一番好き。それじゃ、ダメかな?」
「…ううん」
「涼一以上はいないよ。それは、ずっと変わってないから」
「…知ってるよ。暁が、どれだけ涼ちゃんを大事にしてるのか」
千那は、まだ困ったように笑っていた。
私は、千那に笑って欲しかった。
千那が笑わない時は、きっと何かある時だ。
私の言葉に、反応している時だ。
何を言っても目を伏せたままの千那。
私の胸の中は、心細さで溢れていた。