それを愛と呼ぶのなら。【完】
「暁…二番は?」
「え…?」
「涼ちゃんは『一番』なのよね?じゃあ、『二番』は誰?」
『二番は誰?』
千那は、言った。
私は、理解した。
そうだね。
『一番』なんて、使っちゃいけなかった。
他の人と、比べちゃいけなかったんだね。
比べられる人が、住みついている証拠なんだね。
私は笑った。
自然と頬が緩むのを止められなくて。
自嘲的でもなく、弾けるような笑いでもなく。
柔らかく、優しい笑いで。
悟のことを考えるだけで。
こんな風に、笑える。
それだけで、嬉しい。
「千那」
「ん?」
「二番は、訊かないで」
「暁…」
「決めたんだ。ずっと、一緒にいるって」
「うん」
「私のエゴでも構わない。涼一といることを、決めたの」
そう言うと、千那は安心したように柔らかく笑った。
何も言わずに、あと一口でなくなりそうなビールグラスを持ち上げる。
それに、わずかに赤ワインの残ったグラスを合わせる。
かちん、と気持ちのいい音は、私の背中をぐっと押してくれた。
その乾杯を合図に、私と千那は帰る準備を始めた。
真冬の北海道は、外に出ると凍える程寒い。
今日はかなり冷え込む、と天気予報で言っていた。
「カズさん、チェックしてくれる?」
「おぉ、暁。そろそろ限界か?」
「そりゃね。マズイと思いませんか?正真正銘の花嫁なんですけど?」
「だよな。今、出すから待ってろ」
はい、と答えて入口のクローゼットへ向かう。
千那も立ち上がろうとしたけれど、それを制して一人で立ち上がる。
私の気持ちを察してくれたのだろう。
千那はよろしく、と言って手を上げた。
大丈夫。
もう、気持ちは決まっているのだから。
心の中で、小さく呟いた。