それを愛と呼ぶのなら。【完】
「千那、悪い。暁、少し借りるわ」
「え?暁、時間大丈夫?」
千那が出してくれた助け船に、縋りたい気持ちになった。
と、同時に。
最後に悟と話したい、という想いも込み上げた。
「千那、私あと一杯だけ飲んで帰るよ」
千那は反対したりしなかった。
そして、優しく笑ってくれた。
その顔が、仕方ないわね、と言っているようで、少し泣きたい気持ちになった。
「大丈夫か?もう遅いし、下まで送ってやる」
「いいよ。悟、来たばっかりなんだから。暁のこと、よろしく」
「マジで気を付けて帰れ。何かあったら連絡しろ」
「悟。心配し過ぎ。いつもよりも早いんだから平気だってば」
千那はからっと笑ってそう言った。
カズさんがお会計を持ってきてくれて、千那だけが帰ることを伝える。
じゃあね、とあっさり帰っていく千那を見送った後。
なんとなく流れで、そのまま二人、席に腰かけた。
カウンターに用意された悟の席は、あっさり私たちの席に移された。
この席は、カウンターの真正面にある。
二段ほど高くなっている床に、ソファーとイスが向かい合わせで座れるようにテーブルが置かれている。
カウンターとこの席を遮るように、木のついたてが備え付けられていた。
ソファーは二人座るのがいっぱいいっぱいの広さで。
ほぼ正方形の、少し小さめのテーブルを挟んだ向こう側に悟が座っている。
悟はいつも通りビールを飲むのかと思ったら、スプモーニなんて可愛いものを注文した。
訊けば、職場の人とワインやら日本酒やらをしこたま飲んできたらしい。
お酒がそこまで強くない悟には、きっと辛い量だったに違いなかった。