それを愛と呼ぶのなら。【完】
「おめでとう、暁」
「ありがとう、悟」
二人で乾杯をして、グラスの中身を飲み込む。
赤ワインに飽きてしまった私は、結局モルガンを飲むことにしていた。
いつも通り、少しのコーラと少しのレモンを入れてもらって。
相変わらずの空気を纏っている私たちは、会話に詰まることも気まずくなることもなかった。
どんなことがあってもポーカーフェイスを被るのは、私も悟も同じだった。
「あっという間だったな、結婚決まってからは」
「そうだね。去年の今頃は挨拶だ、引っ越しだ、ってバタついてたから」
「彼氏帰って来てからは、あんまり一緒に飲めなかったしな」
「だって、忙しかったんだもん。それに、悟だって仕事でそれどころじゃなかったでしょ?」
「違いない」
目の前の悟を見つめて、そういえばいつから逢ってなかったのだろう、と考えていた。
多分、ここ数ヵ月はまともに会っていなかったと思う。
久しぶりのはずなのに、全然久しぶりではない感覚。
今も鮮明に想い出せる悟が呼んだ、たった三文字の言葉。
そこに込められた、決して伝えられることのない想いを。
受け取らないフリをして、今日までやってきた。
それも、今日で終わり。
全部、ちゃんとしなくちゃいけないね。
「悟」
「ん?」
悟を見つめる私の目線に、意味があることに。
気付いているのに、わからないという顔をする。
そんな狡さを持っているくせに、自分に正直で真っ直ぐな悟。
そんな悟が、やっぱりイイと想う。
そのままの悟が、素敵だ、と想う。
「明日、どうしても式に来るのは無理?」
見て欲しい、と想った。
私が決めた覚悟を。
大切な、この人に。