それを愛と呼ぶのなら。【完】
「…仕事は、なんとか休めるだろうな」
「じゃあ、せめて式だけでもおいでよ」
「嫌だよ」
「なんでよ。午後からだしゆっくり寝て来れるよ?」
「イヤだ」
駄々っ子みたいなやり取りに、完全に酔いが回っているのを感じ取った。
そんなに頑なに断られると思っていなかったので、困ったような笑いを向けてしまった。
「…あのなぁ」
バツが悪そうに悟がグラスの中身を煽る。
半分くらい入っていたスプモーニは、するすると流れるように悟の喉に吸い込まれていった。
「カズさん、おかわり」
「あいよーっ!」
カウンターにはまばらに人がいて、スタッフと常連のみんなが各々話をしているのが見えた。
悟はカウンターを見つめたまま、私に横顔を向けていた。
その横顔から、悟が何を考えているのか全くわからなくて、見つめていた目線をテーブルへと逸らした。
「はいよー、サックンのスプモーニ。今日は逃げ腰だなぁ」
「だって、俺もうヘロヘロだから!限界近いから」
「まぁーった、そういうこと言っちゃう?夜はこれからだよー!」
「俺はもうすぐ終了だよ…マジ、なんなのこの店」
いつものやり取りをして悟に笑顔が戻ったか、と思えば、やっぱり苦い顔をして笑う。
真っ黒なその目の中は、やっぱり感情が見えなくて不安になった。
「暁。俺は、行けねぇよ。やっぱり」
いつもの悟の声じゃない。
活舌が悪くて、甘ったるい声だけれど。
どこか悲しい声。
切なく、掠れた声。
知ってるよ。
その声。
私の心臓を、鷲掴む声だもの。
私の、胸を痛くさせる声だもの。