それを愛と呼ぶのなら。【完】
「見たくねぇな。お前のウエディングドレスは」
悟の声に反応して、鼻の奥がつん、と痛くなった。
堪えようと必死になってカウンターに目線を向けた。
柔らかい、声で。
いつもの悟の優しい声で。
言った言葉の意味を噛み締めた。
悟に逢ったのは、たった一年と少し前。
顔だけは知っていたその人を、素敵だと想ったのは。
優しい声と綺麗な黒い目を持っていると知ったのは。
抱き締める腕の力の強さに気付いたのは。
焦燥感に溢れる強引さを知ったのは。
この人に恋をしたのは、たった一年と少し前。
確かめたことはない。
だから、わからない。
けれど、きっと。
同じ気持ちでいてくれたんじゃないか、と。
そんな自惚れた気持ちを持っている。
それが、今くれた言葉に滲み出ている気がした。
『見たくねぇ』と言った、悟の精一杯の言葉に。
「何よ…。多分綺麗だよ、私のウエディングドレス。その為にダイエットだってしたんだから」
「だろうな。似合うに決まってる」
「見てみなきゃ、わかんないわよ…」
「わかるさ。白が映えるくらいの色白は、お前くらいだろうな」
「…じゃあ、来て。…来てよ、悟」
無茶苦茶なお願いだ、と自分でもわかっている。
でも、逢いたいんだ。
明日の私を、見て欲しいんだよ。
実感したいんだ。
悟への気持ちが、もう二度と。
繋がらないんだ、ということを。
「行けねぇよ。その場で、祝福してやれる気がしねぇんだ」
その言葉は。
私たちの気持ち、そのもので。
やっぱり、痛いくらいに好きだと想い知らされた。
数か月ぶりに逢っても尚。
簡単に色褪せてなんてくれないことを。