それを愛と呼ぶのなら。【完】
「綺麗だな、暁。」
私はその人を見て、軽く目を見開いた。
正装をして、胸には白い大きな花を挿して。
生花かな、と思ったけれど放つ香りがいつもと同じ香りだったので、とてもよく出来たレプリカだな、と思って見つめた。
大きな白い百合。
カサブランカ。
花言葉は、
『雄大な愛』
『高貴』。
私が、この世の中で一番好きな花。
私のブーケにもカサブランカが使われている。
カサブランカがメインで、白いバラがあしらわれているブーケ。
少し垂れさがるような形になっているそれは。
私が持つにはあまりにも真っ白で何にも染まらず。
花にさえ輝きが負けてしまうのではないかと想う程、綺麗で潔白だった。
磨かれた靴を携えて、一歩ずつ私に近付く。
しっかりとアイロンをかけられた襟と袖。
いつもよりもシャンと伸びた背筋。
私を見つめる黒縁眼鏡の奥の、真っ黒な目。
今日はガラスのように透き通っている。
映った私が、その目の中にしっかり見える。
目の前で立ち止まるその人を、私はいつもと逆に見上げていた。
私より小柄で、私より華奢なその人を。
不思議な気持ちで見上げていた。
「だから言ったでしょ?見てみないとわからない、って」
「まぁ、そうだね。想像以上に綺麗だ。マジで」
目の前の悟は、そう言って笑った。
その顔は苦しそうな顔ではなく、なんだかとてもスッキリした顔をしていた。
昨日の夜。
朝まで一緒に眠っていた。
何をする事もなく。
ただ手を繋いで。
いや、触って。
最後の、夜。
一緒に呼吸を合わせて眠った。
最初で最後の、夜。