それを愛と呼ぶのなら。【完】
私が涼一を選んだのは、悟よりも涼一の方が、より私を必要としてくれているからだ。
涼一は、我が儘で頑固で理屈っぽくて、私の話を聞いてくれることは少なくて、自分の思い通りにならないことを嫌がる。
そういうところが、心底嫌だ、と想うけれど、そういう人間らしいところを受け止めて欲しい、というエゴがなんだか愛しい。
自分の一番どうしようもないところを、涼一は私に預けてくれる。
そういうところを受け止めてあげたい、と想う。
自分もエゴの塊だから。
涼一の気持ちを理解してあげられる。
悟は。
そういうところを上手に隠してしまいそうで。
『ここは入ってきちゃダメだよ』という線引きを、いとも簡単にしてしまいそうで。
結局私は、そこに踏み込む勇気がなかったんだと想う。
人間は、自分を守るために生きている。
私は。
全ての人から好かれたい。
誰かに嫌われてしまったら、誰かに好かれたことさえ忘れてしまうくらい怖くなる。
自分が悪者になりたくないから、誰かのせいにしてしまう。
自分が大事だから、周りの目ばかり気にする。
だから、今の体裁を守ることばかり考えて、がんじがらめになっている。
私は。
悟のことが好きだけれど。
絶対に自分を好きでいてくれる人を、手放すなんて出来なかった。
そして何より。
祝福してくれる人たちと、私を大切にしてくれる涼一を裏切ることなんて、出来なかった。
自分が一番安全で、傷付かない道を選んだだけ。
結局、誰を好きになっても、好きな人を大切に出来ないだけ。
狡くて、臆病で、我が儘で、貪欲なだけ。