それを愛と呼ぶのなら。【完】
ただ一言。
「好き」と言えたら、
何か変わっていたのかな。
ただ一言。
「好き」と言わないことが、
あなたを好きな証になればいい。
だから、
あの人には伝えない。
言葉に出せない程、
あの人を好きになってしまったから。
それを言わないことが、
私に出来る唯一のことだと想うから。
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「アキ、時間だよ。待ってるから」
目の前の真っ赤なバージンロードを見つめて、先に中に入って行く涼ちゃんの背中を見送った。
その後ろ姿は、今まで見た中で一番凛々しくて、この人の背中があって良かったと。
そう想わせてくれる後姿だった。
教会の鐘が鳴る。
隣には、私より背の高い父親がいる。
目を向けると少し潤んだ目と合ってしまうので、出来るだけ顔を合わせないようにしていた。
「暁」
生まれた時から守られていたその声に、そっと顔を向ける。
「どうしたの?お父さん。何かあった?」
「いや…」
歯切れが悪い。
ということは、寂しいんだろうな。
「お父さん」
「ん?」
「いつまでも、娘だから。また、『ただいま』って帰るから」
そう言った私を見て、潤んだ目を見開いた。
そして悲しそうな、でも心底嬉しそうな顔をして、そうか、と小さく呟いた。
扉がそっと開いて、パイプオルガンの音が鳴る。
オレンジ色の光が、閉ざされていた教会の中に優しく降り注ぐ。
入口のすぐ横に。
優しい微笑みの悟がいた。
口元で何か言っているのが見えて、それを必死に読み取った。
活舌の悪さは、口パクに影響しないことを祈って。
一瞬しか見えなかったその口元が、私の涙を誘った。
『愛してる。幸せに』