それを愛と呼ぶのなら。【完】




「それもそうだね」




千那はそんな私に気付いているようだった。

私からワインのボトルを取り上げて、空になった私のグラスにも注いでくれた。




「何回聞いても信じられないわよ。それで始まっちゃうなんて」


「そう言わないでよ。私だって驚いたんだから」




千那が注いでくれたワインを持ち上げて口に運ぶ。

すいすい飲み込む自分の身体を感じて、つくづくお酒が強いな、と思った。







涼ちゃんとの始まりは、冗談みたいな一言から始まった。



もとはと言えばカズさんが発端なんだけれど。



三年前の年末。

私たちはお互いの恋愛に区切りをつけた。

新たな気持ちで新年を迎えたかったのだ。



涼ちゃんは、例の彼女と別れてから好きになった人への、三年を超える片想いに。

私は、四年間同棲していた元彼に。


諦めることで、進めることがあると知った。




年が明けてすぐ。

いつものようにこの店で飲んでいると、カズさんが突然『お前らが付き合えばいいんじゃね?』と言い出した。

お酒が入っていたこともあり、『じゃあ、付き合っちゃおっか?』と言った私の言葉に、涼ちゃんが『いいよ』と言った。




それが私たちの始まりだった。



冗談みたいなままには出来ず、二人でしっかりとお互いの気持ちを確かめた。

今まで友達だったので、妙に意識してしまうことも多かったけれど。

それでも、そんな日々が大切でかげがえのないものになった。




可愛くて我が儘で、ちょっと頼りないけど優しい涼ちゃん。

明日、これからずっと一緒にいる約束をする。







「でもさ、涼ちゃんと遠距離にならなかったら、こんなに簡単に結婚の話進まなかったかもね」


「…うん。そう、想う」




そう言って、千那に向って笑う。

どうかその顔が、いつもと同じであるように祈って。




涼ちゃんと離れていた四ヶ月。

寂しさよりも、違うものが胸にあった事を千那は知っている。



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