それを愛と呼ぶのなら。【完】
涼ちゃんは四ヶ月間、雪深い北海道から日本の中心都市である東京へ出向した。
当初、三ヶ月で帰ってくる予定だったのが、一ヶ月延長になったことで私と一緒に暮らす事を決意してくれた。
その一ヶ月で、涼ちゃんは寂しさと私が傍にいる大切さの両方に気付いてくれた。
私は嬉しかった。
でも、その反面。
何か複雑な気持ちだった。
自分の気持ちが、自分のものでないような。
そんな感覚が付いて離れてはくれなかった。
「ねぇ、暁」
「ん?」
もうすぐ空になりそうなワインのボトルを持って、自分のグラスに注ぐ。
千那はもうワインはいい、と言ってビールを飲んでいる。
「さっきから引っかかってるの、悟(サトル)のことでしょ?」
ほんとに千那は目ざとい。
確信してるなら聞かないで欲しい、と想うのに。
こんなことを話せるのは千那しかいない、とも想う。
「さぁね」
苦し紛れに誤魔化した私の言葉は、逆に肯定の意味を持っていた。
テーブルの上に置かれた自分のケータイを見つめる。
鳴らないケータイに安心しているのは、まだ千那に聞いて欲しいことがあるからだと想った。
「暁。本当にこれでよかったの?がんじがらめに、なってるだけじゃなくて?」
不安そうな千那の声。
その声に、満面の笑みで応える。
よかった、も何も。
私は涼ちゃんのことがとても好きで。
その人が傍にいてくれるだけでよくて。
ただ息をして、そこで生きていることが奇跡にだって想えるくらい幸せで。
この結婚になんの疑問もなくて。
それなのに千那は、真っ直ぐ私を見つめて言う。
『本当に、これで良かったの?』
いいんだよ、千那。
私は、涼ちゃんと結婚したいんだから。
『本城 暁』から、
『橘 暁』になる。
こんなに幸せなことはもうない、と想えたから。