無機質な恋模様
真奈美ちゃんの前では完全にそのシールドが外れている。
丸裸の無防備状態になっている。

「仕事だから仕方なく」じゃない。

何だかんだ憎まれ口をたたきつつ、結局真奈美ちゃんとは、業務の合間合間に数々の「無駄話」をして来たのだから。

佐々木が彼女の発言を聞き逃した事はない。

すべて拾い上げ、そしてとっても分かりづらくて不器用でぶっきらぼうな愛情で、きちんと答えを返している。


さらにもう一つ。


普段は超絶に居丈高で高圧的で鋭すぎる視線が、彼女を見る時だけ、とても柔らかく変化する一瞬がある事も、僕は気付いているんだから。

でも、教えてなんかやらないんだ。

っていうか、教える術もないしね。

指令通りの処理はできても、単独で、自らの意思で、情報を出力する事など僕にはできないから。

しょせん機械だから。

ただの最新式の、高性能のプリンターだから。


……さて、ドラム交換の準備は整ったようだ。

僕はここで一旦眠らなければならない。

だけどすぐにまた、真奈美ちゃんが起こしてくれる筈だから。

僕は安心して、意識を手放すよ。


隠れ蓑で良い。

身代わりでも良いんだ。

あの可愛い笑顔で、優しい声で。

どうかまた、「プリンターのリンタ君」て、僕の名前を呼んでおくれよ。
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