無機質な恋模様
「おはよー真理!」


4階まで上がり、廊下を進んでロッカールームへと入るやいなや、先に中にいた彩に声をかけられる。

同期で同じ総務部所属なので、必然的に社内で一番の仲良しだ。


「おはよう彩」
「んもー、超強風だったよねー。髪の毛乱れまくり!」

挨拶を返しながら自分のロッカーへと向かう私に近付きつつ、彼女は会話を続けた。

「まぁ、台風が接近してるらしいから仕方ないんだけどさ」
「えっ。うそ!」
「ホントホント。といっても、日本列島直撃ではないけどね。九州地方の海沿いをかすって行くかんじ?」


彩は疑問系の自分の言葉に連動させて小首を傾げた。


「それでもやっぱりそれなりに影響があって、お昼過ぎから夕方にかけてがピークらしいよ」
「そうなんだ…」

ついつい天気予報をチェックするのを忘れてしまって、その情報は把握していなかった。


「あ」

『忘れる』というキーワードによって私は唐突にあることを思い出す。


「しまった!今日『エリカ』が久々に音楽番組に出るのに、録画予約してない~」
「あ、ファンクラブに入ってるってやつ?」
「うん。19時からの生放送で、どのタイミングで歌うか分からないんだよ。携帯のワンセグだと移動中ちょいちょい電波が途切れるし…」
「固定のテレビじゃないと厳しいよね。定時と同時にダッシュで帰れば?」


大きく頷きながら私は続けた。
< 13 / 54 >

この作品をシェア

pagetop