無機質な恋模様
「やっぱそれしかないよね。エリカがトップバッターで、一本でも電車に乗り遅れたらもうアウトだけど」
「頑張れ!」


彩に励まされながらロッカールームを出て、そのまま総務部へと向かった。


「ちょっとさぁ」


業務開始から数十分後。

白衣の男性がフラリと入室して来て、カウンターの役目を果たしている備品棚の前に立ち、そこから一番近い席に座る私にそう呼び掛けて来た。

その人物を認識した瞬間『あ』と思う。

彼は今年度入社した福田という研究員で、女性社員のネットワークを通じて社内にその顔と名前が知れ渡っていた。

すこぶる最悪な評判と共に。

全部署合同の有志だけの女子会で、彼と同じ課の事務員の子が内情を暴露したのがきっかけだった。

『同期なのに私を部下扱いして、色んな雑用を当然のごとく押し付けて来るんです。しかもその物言いがとんでもなく高圧的で偉そうで。超絶イケメンだっつーなら堪えてやらない事もないけど、小太りで頭髪が常時しっとりしてて、生理的にムリな奴にそんな俺様な態度を取られてるもんだから嫌悪感もひとしおですよ!』

心底憎々しげに、不愉快そうに語っていたっけ。

ただ、私はたとえ外見が整っている男性であっても、無駄に威張り散らされた時点で人としてナシになるけど。

『精神のコントロールが上手くできない人なんだな……』と冷めた目で観察してしまう。
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