無機質な恋模様
いくらでも言葉は選べるのに、わざわざ他人をドン底に突き落とすような、悪意に満ちた物言いをする必要などないではないか。

だからドラマや小説で、そういうタイプの男性にぽ~っとなる主人公には一ミクロンも共感できない。


「今着てるのとは別の白衣がボロボロになったんで、新しいのが欲しいんだけど」
「あ、ハイ」

しかしもちろんそういった背景があったとしても、仕事を進める上で無視する訳にはいかない。

社員への貸与品管理は私の所属するグループが担当なので、そのまま彼の対応をする事になった。


「それではこの申請書の太枠部分に必要事項を記入して下さい。手続き後、新しい白衣をお渡ししますので。古い方は二週間以内に返却して下さいね」

「…はぁ~、めんどくせぇ~」

彼はため息混じりに胸ポケットからボールペンを取り出した。

「何でこんなアナログなやり取りをしなくちゃいけないんだよ。もっとこう、システムを簡素化できないワケ?申請書提出はPC上でOKにして、白衣はどっかに置いとけば誰かが回収してくれるとかさ」
「……貸与品は使用する本人と担当者とがきちんと対面して授受する決まりなんです。紛失して悪用されたりする危険を回避する為に」


評判通りのその上からな口調に驚きつつも、私は平静を装い回答した。


「なのでご協力、お願いいたします」
「俺ら研究員はそんな気軽に持ち場を離れる訳にはいかねーんだけど」
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