無機質な恋模様
しかしその説明では納得できなかったらしく、彼はさらに横柄な態度で言葉を繋ぐ。

「事務みたいに誰でもできるような類いのものとは違って、高度な技術と専門知識を要する業務をこなしてんだからさ。もっと敬意を表して欲しいんだよなぁ。まぁ、おたくみたいな下っぱに言っても仕方ねぇんだけど」

同時にガリガリと殴り書きで書類への記入を済ませ、ペンを元の位置に戻し、続けた。


「ほら、書いたけど?」
「…それではお預かりします。準備が整ったら、福田さんの端末宛にメールを送信しますので」
「あっそ。早く処理してくれよな」

福田君はそう捨て台詞を残し、さっさと部屋を出て行った。


「ちょ、何なの?あれっ」

デスクに戻った私の元に、彩が眉を吊り上げながら近寄って来る。
グループは違うけど席は近いので、当然、先程の彼の発言は耳に届いただろう。

「イバりくさっちゃってさぁ。何様のつもり!?ホント、噂通りの奴だったねっ」
「うん…」
「『下っぱ』って、お前の方が私らより2コも年下だろっつーの。この情報もさっそく皆に拡散してやらないと!」

鼻息荒くそう宣言すると、彩は自分の席へと戻って行った。
私はため息を吐いてから、申請書の処理をするべく改めて机に向き合う。

もやもやとした気持ちを抱えつつも、何とか午前の業務をこなし、昼休みを迎えた。
彩と共に一階まで下り、社食を目指してエレベーターホールを横切っていたその時。
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