無機質な恋模様
定時になり、デスク周りを手早く片付けて、彩を含めた残業組の人達に「お先に失礼します」と挨拶しながら部屋を出る。


ロッカールームで帰り支度を済ませてエレベーターに乗り込み、一階に降りて、小走りにホールを横切った。

門番の元へと向かい、鋭い光を放つ瞳の前に社員証を翳し、そのまま通過しようとしたのだけれど。


サッ。


……え?


彼の手が素早く上がり、行く手を遮られてしまった。


『ダメです』


彼は静かに語り出す。


『今、あなたをお通しする訳にはいきません』


「ど、どうして?」

大いに混乱しながらも、私は問いかけた。

「何がいけないの?私、今日はとても急いでいるのだけど…」
「どうしました?」

するとそこで、受付嬢の後を引き継ぎ、カウンター内に待機していた警備員さんが近付いて来た。

「あ、な、何だか通れなくて…」
「もう一度試してみてもらえますか?」


言われた通りに再度彼に社員証を提示したけれど、相変わらず手は上げられたまま。


「ダメですね…。申し訳ないのですが、持ち出し禁止の書類等携帯していないかどうか、荷物とボディのチェックをさせていただきますので」
「は、はい…」
「あ。私ではなく、女性警備員が行いますから安心して下さいね」


不安な気持ちが表情に現れていたようで、警備員さんは急いで補足した。
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