無機質な恋模様
会社の敷地を抜けて歩道に出て、駅を目指してズンズン歩く。
ピークは過ぎたようだけれど、相変わらず強く吹き付けてくる風を切り裂くようにしながら。
「…あれ?」
しかし、数百メートル進んで角を曲がった所で、思わず足の速度を緩めた。
進行方向に何やら人だかりを発見したからだ。
「……どうかしたんですか?」
「え?あ」
その集団に近付き、一番後方に居た同年代の女性に声をかけてみると、振り向いて解説してくれた。
「この雑居ビルの看板が落下したんですって。ホラ、あそこ」
「えっ」
女性が指差した先に視線を向けると、確かに、社名の書かれた物体が歩道に横たわっていた。
「幸いその瞬間は通行人がいなかったみたい」
「すごい風でしたからねー」
右斜め前に居た中年の男性も会話に加わって来た。
「でも、それくらいで落下するなんて、かなり老朽化していたって事ですよね」
女性は右手で自分の左腕をさすりながら眉間にシワを寄せて言葉を続ける。
「以前も別のビルで同じような事故があったし。怖いわー」
「……看板が落ちたのはいつ頃のことなんでしょうか?」
「ついさっきですよ。ほんの4、5分前」
男性の回答に、心臓が大きく脈打った。
もし、あのまますんなりと帰路に着いていたら…。
私は急いで体の向きを変え、来た道を引き返す。
ピークは過ぎたようだけれど、相変わらず強く吹き付けてくる風を切り裂くようにしながら。
「…あれ?」
しかし、数百メートル進んで角を曲がった所で、思わず足の速度を緩めた。
進行方向に何やら人だかりを発見したからだ。
「……どうかしたんですか?」
「え?あ」
その集団に近付き、一番後方に居た同年代の女性に声をかけてみると、振り向いて解説してくれた。
「この雑居ビルの看板が落下したんですって。ホラ、あそこ」
「えっ」
女性が指差した先に視線を向けると、確かに、社名の書かれた物体が歩道に横たわっていた。
「幸いその瞬間は通行人がいなかったみたい」
「すごい風でしたからねー」
右斜め前に居た中年の男性も会話に加わって来た。
「でも、それくらいで落下するなんて、かなり老朽化していたって事ですよね」
女性は右手で自分の左腕をさすりながら眉間にシワを寄せて言葉を続ける。
「以前も別のビルで同じような事故があったし。怖いわー」
「……看板が落ちたのはいつ頃のことなんでしょうか?」
「ついさっきですよ。ほんの4、5分前」
男性の回答に、心臓が大きく脈打った。
もし、あのまますんなりと帰路に着いていたら…。
私は急いで体の向きを変え、来た道を引き返す。