無機質な恋模様
コンピューターの進化、普及が目覚ましい現代においても、「紙」の状態のまま残しておかなければならないデータも当然存在する訳で。
「よっこらしょっと」
特に私の勤務するここ、某国営機関では、保管書類の量は膨大となり、それらのファイリング作業は重要な任務の一つであった。
「さてと、やりますか」
部署内の資料保管庫にて、作業机の横に積み上げた書類入りのプラスチックケースを眺めつつ呟く。
いったん自分のデスクまでブツを運んでまたここに戻って来て……というのは無駄な動きにも程があるので、この業務を行う際は最初からこの部屋に籠るようにしていた。
といっても、一番面倒な分類作業はすでに終えていて、後はひたすらファイルに綴じて行くだけなのですでに峠は越えている。
そしてここからは、いよいよあの子の出番。
この業務には欠かす事のできない、頼れる職人その名も『てっちゃん』。
いや、それは私が勝手に付けた愛称だけどね。
正式名称は別にあるのだった。
「てっちゃん…」
私はやはり机上に待機させておいた彼に優しく触れながらそう呼び掛けた。
それまで気持ちよさそうに眠っていた彼は、『うぅ~ん』と唸りながら起き上がる。
『…よんだぁ?』
「うん。今日もお仕事頼みたいんだ」
言いながら、私は見本として用意していた既存のファイルを掲げてみせた。