無機質な恋模様
といってもそこから見える景色自体が代わり映えしないのだけど。



ここは先代オーナーが始めた飲食店の、バックヤードの事務所の中。


個人経営にしてはなかなかの繁盛っぷりで、主導権がその息子の二代目に移ってからは更に利益が上がり、来年度、都内に支店を出す案が出ているようだ。


事務処理は主に現オーナーとその奥さんが担当していて、時たま従業員も補助に入るけれど、メインの業務はやはり店内での調理や接客なので、この部屋に長い時間誰かが居座るという事はない。


ま、その方が私にとっては気が楽だけどさ。


また、パソコンは事務所内に一台しか設置されておらず、必然的に複数の人間が交替で操作をする事になるのだけれど、それでも私に関わろうとする人物は皆無で、ずっと蚊帳の外に放り投げられたままの状態という訳だ。


『ちょっとごめんね』


なんて事を考えていたら、誰かがふっと私の前に進み出た。


『あ、たっちゃん』
『やぁ、はーちゃん』
『またご指名されたんだね』
『うん』


彼はその控えめで穏やかな性格に似つかわしい、ほんわかとした笑顔を浮かべて答えた。


『フェアの案内を出すから、宛名ラベルが必要みたい』
『いいよねー、たっちゃんは。先代オーナーに気に入られてたから、必然的に他の人もその意向に従うようになったし』
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