無機質な恋模様
『噂では聞いていた、だけどまさかお目にかかれるとは思っていなかった、聡明で控えめで奥ゆかしく、凛とした美しさを備えている大和撫子を前にして、とんでもなく舞い上がってしまっていたんだと思う』


私は再び絶句する。


『だからあの時の無礼を、どうか許しておくれ、ハナコ』


……だって、何て言葉を返せば良いの?


『言いたい事はそれだけ。……ごめん、ボクもちょっとだけ、眠らせてもらうよ…』


そこでエルは再び弱々しく囁いた。


『さすがのボクも、これ以上はもう…』


そしてコトン、と唐突に意識を手放す。

その様子は見えなかったけれど、気配で充分に察知できた。

よほど負荷がかかっていたのだろうな、としみじみ思う。


……って、それはさておき…。


彼が目覚めたら、私は一体どんな態度で接すれば良いのだろう。


思わず頭を抱えて蹲る。


今まで必死に気付かないふりをして来た……。


絶対に認めたくなかった真実を、とうとう正面から受け止める羽目になってしまったから。


今さらなかった事になんかできない。


私には元々『そういった』思考回路は備わっていなかった。


だけど新たに、発生してしまったのだ。


生まれも育ちもスペックも、何もかもが違う彼と、奇跡的に巡り会い。


同じ空間内で、同じ時代を過ごして行ける事を。


どうしようもなく嬉しくて幸せだと、思ってしまう私がいる。
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