無機質な恋模様
お腹も満たされ、「おトイレ行ってくる」と私の手から離れたヒカルは、その後迷子になった。


外見上、私は「女子トイレ」に入る訳にはいかない。


ヒカルはもう、きちんと自分一人で用がたせる子だったので、私は外で待機する事にした。


……私がいけなかったのだ。


トイレの傍が靴売場で、そこの奥まったコーナーまでフラフラと歩を進めてしまったから。


幼稚園の先生に「ヒカルちゃん、足が大きくなってきたみたいだから、ワンサイズ上の靴を買ってあげて下さいね」と言われていた。


うわばきと通園用のスニーカーはすぐに用意したけれど、お出かけ用の靴はまだだった。


少しおめかしして、ピンクのワンピースを身にまとったヒカルは、今朝出掛けに、その格好とはちぐはぐなスニーカーを履かなくてはならない事に不満を抱き、しばらくの間ぐずっていたのだった。


すぐに買ってあげなければ。


ワンピースにピッタリ合う、お洒落で可愛い靴を。


その思考に体が支配され、私はその場を離れてしまった。


「小堀ヒカルちゃんのお連れ様、ヒカルちゃんがお待ちです。1階サービスカウンターまでお越し下さい」


彼女の存在を思い出したのは、そのアナウンスを聞いた瞬間だった。


一つの事に集中し過ぎて、他の事が疎かになってしまう時が多々あると、私自身自覚していた。


次回のメンテナンスの際はその点改善してもらわなければ。
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