無機質な恋模様
デパートを後にし、バスに乗り込んで、自宅最寄りの停留所で下りる。


夕暮れ迫る、家まで数100メートルのその道のりを、ヒカルを背負いながらゆっくりと歩いた。


「マモル……」


家まであと僅かの距離まで来た所で、ヒカルは遠慮がちに私の名を呼ぶ。


「さっきは怒っちゃって、ゴメンね?」

「ヒカルが謝る必要はない。私は怒られて当然のことをしたのだから」

「パパには言わないから」


先ほどと、言っていることが違っていた。


「マモルが叱られたら、可哀相だもん」


私の思考回路は少し混乱した。


「いや……。「可哀相」ではないよ。私は約束をやぶったんだから」

「パパとの約束なんか、どうでも良いの」


彼女との会話が噛み合わない。


「私は、ただ、マモルにそばにいて欲しいだけだもん」


言いながら、ヒカルは私に抱き付く腕に力を込めた。


「私がうれしいから、私のそばにいて」


正直、感情面の話になると、私には良く分からなかった。


「嬉しい」という言葉自体は把握している。


それが人間にとって、とても心地よい感情だということも。


人間の喜怒哀楽に関するデータは私の中にインプットされているので、表情やしぐさや声の周波数で、今どのような精神状態であるかの判断はできる。


だけど私にはそれを体感することはできない。


もちろん、そこにこだわる必要はないのだが。
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