無機質な恋模様
その意味自体は把握している。


人間にとって、あまり喜ばしくない言動のこと。


しかし、私には、それを今実行した自覚は無い。


その言動を取るべき場面が、私には分からない。


「……冗談よ。あんたにはそんな高度な芸当なんかできないもんね」


ヒカルはじっと私を見つめながら、呟いた。


「私のせいで、感情を乱すことなんか、ある訳ないもんね……」


……最近のヒカルはどこかおかしい。


お風呂はもう一緒には入らないしベッドであやす必要もないし学校にも一人で行っている。


ヒカルは着実に大人に近づいているから。


だけど時々……。


小さい頃よりも頼りなく、まるで泣き出しそうな表情で、私を見つめる事があるのだ。


これがいわゆる「思春期」というものなのか。


私よりも複雑な思考回路を持ち、様々な感情を表現できる人間の親でさえ対応に困るらしいのだから、私が、どのような措置を取れば良いのか判断に迷うのは、きっと仕方のないことなのだろう。


自分の部屋へと向かうヒカルの背中を見つめながら、私はそう結論づけた。



***********

あれはヒカルではないだろうか?


日曜日。


小堀氏もヒカルも夕飯はいらないと言っていたが、翌朝の食事と弁当用の食材がなかったので近所のスーパーへと買い出しに出かけた、その帰り道。
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