無機質な恋模様
「落ち着けよ。まずは出力を一時中断して、そんで電源を落として、念のためコンセントも抜かないと…」
そこで佐々木は真奈美ちゃんの両手をガッツリ掴んでしまっている自分に気が付き、マッハのスピードで離した。
「ド、ドラムはあそこにストックしてあるから」
そして急いで踵を返すと、そう言葉を発しながら、様々な消耗品が収納されている棚に向かって歩き始める。
「は、はい」
一拍置いてから彼女もその後に続いた。
尋常じゃなく、まっ赤に染まった顔面を俯かせながら。
……僕は気付いている。
だって、ここの社員はみんな首からネームプレートを下げているから。
別に知りたくもなかったけど知ってしまったし、そして気付いてしまったんだ。
佐々木のファーストネームが「麟太郎」であるという事に。
僕はとっても優秀だから……。
本当は真奈美ちゃんはその名前を呼びたいんだよね。
本人に向かって。
あの美しい表情と声音で。
だけどとてもそんな勇気は出ないから、僕で我慢しているんだよね。
そして麟太郎の方も。
本人は上手く隠しているつもりかもしれないけれど、僕にはお見通しなんだから。
他の社員とここでかち合ったとしても、挨拶だけはかろうじて交わして、後はこれでもかとばかりに『俺に話しかけんな』オーラを発しているくせに。
そこで佐々木は真奈美ちゃんの両手をガッツリ掴んでしまっている自分に気が付き、マッハのスピードで離した。
「ド、ドラムはあそこにストックしてあるから」
そして急いで踵を返すと、そう言葉を発しながら、様々な消耗品が収納されている棚に向かって歩き始める。
「は、はい」
一拍置いてから彼女もその後に続いた。
尋常じゃなく、まっ赤に染まった顔面を俯かせながら。
……僕は気付いている。
だって、ここの社員はみんな首からネームプレートを下げているから。
別に知りたくもなかったけど知ってしまったし、そして気付いてしまったんだ。
佐々木のファーストネームが「麟太郎」であるという事に。
僕はとっても優秀だから……。
本当は真奈美ちゃんはその名前を呼びたいんだよね。
本人に向かって。
あの美しい表情と声音で。
だけどとてもそんな勇気は出ないから、僕で我慢しているんだよね。
そして麟太郎の方も。
本人は上手く隠しているつもりかもしれないけれど、僕にはお見通しなんだから。
他の社員とここでかち合ったとしても、挨拶だけはかろうじて交わして、後はこれでもかとばかりに『俺に話しかけんな』オーラを発しているくせに。