甘い恋飯は残業後に 番外編
カウンター席の彼女
* * *
――ああ、今日もいたか。
カウンター席にその姿を見届けてから二階へ上がり、いつもの左奥の席に腰かけて、ちらりとだけ一階を窺う。高柳さんの店に通うようになってから、気がつけば俺はこの一連の動作が常となっていた。
初めてこの店で彼女を見た時、千里の妹だ、とすぐにわかった。
いつだったか、大学でのサッカーの試合の時に一度、彼女が応援に来たことがあったからだ。
とはいえ、千里に紹介されたわけでもなく、ただ観客席にいたところを目にしただけ。それなのに、なぜはっきりと覚えていたのか。
確かに彼女は、千里と同じく人目を引く容姿だった。周りのヤツらも異様に色めき立っていたし、男なら普通はそれが理由になるのかもしれない。
だが俺は、あまり容姿だけでどうこう、という人間ではない。
自分なりに理由を探ってみると、ひとつ、これじゃないかというものに突き当たった。
それは、レモンライム味のドリンク。
彼女が差し入れてくれた手作りドリンクは、酸味が強すぎず柔らかな甘さで、試合で疲れた体に優しく染み渡った。
正直言うと、意外だった。偏見かもしれないが、あの容貌とドリンクの味は、俺の中で全く結びつかなかった。
だから、まるで田舎の祖母が作ったような素朴な味にもしかしたらギャップを感じて、強く印象に残ったのかもしれない。