イケメン部長と(仮)新婚ライフ!?
部長専属のシェフというのは、当然私のことではない。

でも、私も彼女のことだと思う。彼だけのために料理を教えてくれる人なんて、彼女以外にいないんじゃないだろうか。

そこにはたぶん、“元”がつくのだろうけれど、当時はまだ付き合っていたのかもしれない。

本庄さんが言っていた、お嬢様風の元カノさん。彼女もきっと、料理が上手だったんだろうな。部長の仕事にも、一役買うくらいに。


……あれ、何だろう。なんか、胸が……。


「坂本さん?」


心の奥の方に違和感を覚えて黙り込む私の顔を、早乙女くんに不思議そうに覗き込まれ、我に返った。


「あ、ごめん! ぼーっとしちゃった」


あはは、と笑ってみせると、彼はちょっぴり意地悪そうな笑みを浮かべ、上目遣いで見てくる。


「部長のこと考えてたの?」

「違っ! ……わなくもないけど」


否定しようとしたものの、ごにょごにょと言葉尻を濁すと、早乙女くんは「正直だねぇ」と言って笑った。

けれど、彼はすぐに目を伏せ、どこか憂いのある表情を見せる。


「……本当に羨ましいよ、部長が。何でも持ってるんだもんな」


あまり力のない声色で言う彼の心境は、はっきりとはわからない。私の、胸に覚えた違和感の正体も。

もやもやとしたものを抱える私の髪を、爽やかな秋の風がそよそよと揺らしていた。


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