イケメン部長と(仮)新婚ライフ!?
それを部長も耳にしていたから、さっきの突然の事態でも夫婦だなんて嘘を使ったのかな、と思ったのだ。

オフィスに程近い横断歩道の赤信号に差し掛かり、足を止めた彼はキョトンとして小首をかしげる。


「何だ、噂って」

「あ、えーと、私達苗字が同じだから、実は夫婦じゃないかっていう……」


あら、知らないのかな? 普通に教えてしまったけど、自分からこんなこと言うのも恥ずかしい。

ごにょごにょと言葉を濁すと、部長はフッと鼻で笑った。


「何だそれ。ただ苗字が一緒ってだけでか? 中学生かよ」


バカにしたような口調だけど、私もほぼ同感。だって、お互い指輪もしていないのに、何でそんな話になるかなって。

というか、部長は噂を知らなかったのね……。毎日多忙だし、そんなことに構っている暇なんてないか。


「さっき夫婦だなんて言ったから、部長も知ってるのかと思いました」


何気なく言って、車が通り過ぎていく向こうの信号機を眺める。


「俺があんな出まかせを言ったのは、あの時のことがあったからだよ」

「あの時?」


意味深な発言に、赤信号から部長へと目線を移す。

彼は一度私に流し目を向けると、少し身を屈め、さりげなく耳に顔を近付けて囁く。


「……もう忘れたのか? あの夜のこと」

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