イケメン部長と（仮）新婚ライフ!?

うそ……行っちゃうの？　やっぱり、私より元カノを選ぶの？

まさに、天国から地獄だ。さっきの甘い時間が嘘のよう。


「……悪い、急用ができた」


電話を終えた零士さんは、私の目を見ずにそう言い、ビジネスバッグを持って玄関のドアに手を掛ける。

嫌だ、行かないで……！


「っ、零士さん！」


あまりにもあっさりとした別れに、私は思わず引き止めてしまった。振り向いた彼が、何か救いのある言葉を残してくれることを、ほんの少し期待して。

しかし。


「戸締まり、ちゃんとしろよ。じゃあな」


笑顔もない、普通の表情で普通すぎる一言を口にされ、私は絶句してしまった。

パタンと閉まる扉を呆然と見つめ、そのままずるずるとしゃがみ込む。

……なぜ。あんなキスをしておいて、どうして何もなかったように平然と帰れるわけ!?


「お、大人の男って……」


全っ然わからない！　砂糖漬けみたいな甘い言葉とキスの意味も、元カノに会いに行く理由も、全然……。

一気に視界が霞み、こぼれ落ちた涙がコートに染みを作っていく。悔しくて、寂しくて、ぎゅうっと締めつけられる胸が痛い。

なのに、好きな気持ちは膨れるばかりで……本当にどうしようもない。


今わかるのは、もう私の心は彼から離れられそうにない、ということだけだった。