イケメン部長と（仮）新婚ライフ!?

「もしかして、あなたが一葉さん？」


…………えっ!?

まさか名前を知っているとは思わず、目を見開いてぱっと視線を合わせた。


「どうして、私の名前を……!?」

「あ、突然ごめんなさい。零士くん達から聞いてたから」


屈託のない笑顔を向ける彼女を、私は動揺したまま見つめる。

部長、どうして元カノさんに私なんかのことを話していたんだろう。ていうか“達”って？

いろいろと気になるけれど、彼女のツヤツヤとした紅い唇から紡がれた次の言葉で、それはどうでもよくなる。


「私、坂本桐絵です。零士くんの義理の姉」



──聞いた瞬間、雷に打たれたような衝撃を受けた。

義理の姉の桐絵さん、ということはつまり、この人が部長のお兄さんの奥様……!?


「えぇぇっ!?」


私の叫び声が、閑静なエントランスに響き渡った。

ちょっと待って、整理しよう！

今は家族である桐絵さんが、昔は部長の専属シェフで、元カノ……ってことですよね？　そんな複雑でドロドロになりそうな関係だったの!?

あまりにも衝撃的で、開いた口が塞がらない。マヌケ面の私に、桐絵さんは落ち着いた笑顔で口を開く。


「これから時間ある？　もし良ければ、少しお話できたら嬉しいな」


ふたりのことが、前以上に気になる。そんな私が拒否するはずもなく、迷うことなく首を縦に振っていた。